Story of Steel Bridge

わかりやすい鋼橋のはなし

このホームページでは「鋼橋」(こうきょう)に関するいろいろな話をお届けしているんだ。
鋼橋に興味のある人はもちろんだけど「コウキョウ? ずいぶん固そうだなー」と思っている人、 ちょっとのぞいてみない?
案外「なあるほど~」って発見があると思うよ!
 

だいたい「鋼橋」ってなんだ? という人のために、ここでは鋼橋についておおまかに説明するよ。
人が生活のために橋をかけることを考え出してから、橋はずいぶんと変化してきた。移り変わっていく様子を見ながら「鋼橋」を知ろう!
 

橋は何のためにつくられたの?

橋の起源は原始の時代、谷や川を渡るために丸太や倒木を渡したり、池に石をアーチ形の橋(写真1,2)や木を組み合わせたタイコ橋(写真3)

写真1 ギャール川水道橋 (Pont du Gard,France)紀元前19年フランス3層の半円アーチ構造の水道橋 (全長2175m、高さ48.8m)
提供:山田健太郎氏
 

写真2 通潤橋
1854年 熊本県 日本最大の石造アーチの水路橋
 

写真3 江戸時代の両国橋
画:葛飾北斎
川も橋も大変な賑わい
 
近代に入ると、馬車や荷車などの重い荷重にも耐えられるよう鉄を組み合わせた橋が登場(写真4)、その後コンクリートの橋鋼橋」やコンクリートの弱点を鋼線で補う「PC橋」(プレストレス・コンクリート橋と呼ぶ)が主流となっています。
 

写真4 アイアンブリッジ (Iron bridge,United Kingdom)
1781年 イギリス 産業革命初期、近代式製鉄法発祥の地に かけられた最初の鉄の橋 (支間30m)
提供:林良嗣氏
 

橋の分類

現在、橋にはさまざまな種類があり、橋を分類する方法もいろいろです。ここでは何種類かの分類の例を見てみましょう。
 

■使用目的(通行する対象)による分類

●道 路 橋 : 自動車、人(道路の一部として建設)
●鉄 道 橋 : 鉄道、モノレール等(写真5,6)
●人道橋・歩道橋 : 人、自転車など
●水 路 橋 : 水路(写真7)
●パイプライン橋 : 上水、工業用水、石油その他
●併 用 橋 : 道路と鉄道、道路と水路など複数の目的を兼ね備える
 

写真5 手宮―幌内間鉄道 (明治中期頃)
 

写真6 市民の足
「千葉都市モノレール」
 

写真7 南禅寺境内の琵琶湖琉水の水道橋「水路閣」
撮影:三沢博昭
 

■橋を構成する材料による分類

●石 橋 : 石をアーチ状に積み上げる(写真8)
●木 橋 : 木材を直接またはアーチ状に組む(写真9)
●コンクリート橋 : コンクリートを鉄筋で補強した材料を使用
●鋼 橋 : 鋼(ハガネ)を部材として使用
●P C 橋 : (プレストレス・コンクリート橋)コンクリートに銅線で圧縮力を入れて補強した材料を使用
 

写真8 日本橋
明治44年 東京都中央区 日本国道路元標
提供:荒井英範氏
 

写真9 錦帯橋
1673年 山口県
岩国藩主によって架けられた木造5連アーチ橋 橋長193.3m
提供:岩国氏
 

■橋の構造形式による分類

●桁橋(プレートガーター橋):梁を渡す(写真10)
●ト ラ ス 橋 : 部材を組み合わせてトラスに構成(写真11)
●ア ー チ 橋 : 部材をアーチ状に構成(写真12)
●ラーメン橋 : 部材をχ 形に構成
●斜 張 橋 : ケーブルを斜めに張り梁を吊る
●吊   橋 : ケーブルを張り渡して梁を吊る(写真13)
 

写真10 忠別橋
テラスのある橋
撮影:岡田一天
 

写真11 フォース橋 (Forth Bridge,United Kingdom)
1890年イギリス 中央支間518m、全長1625mのゲルバートラス橋
 

写真12 青岸橋
美しさに定評のあるバスケットハンドルタイプのニールセンアーチ橋
 

写真13 大鳴門橋とうず潮
 
■プレートガーター橋

 
■ト ラ ス 橋

 
■ア ー チ 橋

 
■ラーメン橋

 
■斜 張 橋

 
■吊   橋

 
図1 橋の形式
 
橋の構造はこの6タイプが基本となって、単体の橋のまま(単純形式)や複数の橋を連続してつなげる連続形式など、組み合わせによって多くの形式が生まれます。
 

鋼橋とは

■鋼(ハガネ)の特徴

鋼は、鉄にさまざまな化学元素を含ませて熱処理を施したもので、強度が高く、弾力性に富む素材です。特に引っぱる力に対して強く、圧縮される力に対しても、曲がる(座屈という)現象を防ぐため、補強することによって引っぱる力に対するのと同等の強さを発揮する材料です。材料となる鋼材は、製鐵所で注文に応じた強さ、厚さの鋼板が作られ、材料の均一性や品質が保証されています。
 

■鋼橋-鋼を構成部材とした橋

谷間や川幅を、間に柱を設けないで一気に渡すことを支間といいます。支間が大きくなればなるほど橋に加わる力が大きくなるため、これに対応できる鋼を構成部材とした鋼橋の出番が多くなります。 鋼橋は、車や列車などが渡ることによってかかる大きな力に対応することができ、橋自身の重量 も軽いので、大支間でもつくることができます。また、工場で板材などを溶接加工して組み合わせるため、平面 や側面が曲線形や複雑な形状でも精度良く作ることができます。
 

■鋼橋の長所

(a)軽量で強度が強い。 (b)複雑な形状にも対応できる。 (C)管理された工場製品であり、精度が高く信頼性が高い。
 

■鋼橋の短所

(a)錆びる。(ペンキ塗りが必要になる) (b)揺れやすい。(軽くて弾力性に富むため、振動が問題となることがある)
 

現代の代表的な橋

あいだに支柱を設置することが困難な海を渡る橋梁や都市内の複雑な高速道路の橋、弱い地盤上に築造される立体的で複雑な構造物(橋)は、軽くて強度の高い鋼橋の独断場となるのです。(写真14、15)
 

写真14 来島海峡大橋 (本州四国連絡橋)
 

写真15 名古屋環状 2号橋上社 JCT

人に歴史あり、橋にも歴史あり。
現在のような「鋼橋」がつくられるようになるまで、世界中でいろんな試行錯誤があったよ。
では、日本ではどうだったのかな?
ここでは日本の橋の歴史をのぞいてみよう!
 

材質・形式(構造)の移り変わり

■明治の橋

日本で最初の鉄の橋は、慶応4年(1868年)長崎につくられた「くろがね橋」(写真1)です。当時、材質は錬鉄 (注2)、形式はトラスが主流でした。
世界最初の鉄の橋「アイアンブリッジ」(注1)をはじめ、鋳鉄 (注3)を比較的長く使用していたイギリスとは違って、日本が外国に門戸を開いたときには、鋳鉄からその引張強さを改善した錬鉄の時代に入っていました。
 


写真1くろがね橋
※慶応4年(1868年)長崎県

 

■大正の橋

それまで鉄道が主体だった明治時代の日本の交通 は、大正時代になると、市電が発達し、自動車が普及するなど道路も重要になってきました。都市部の道路は改良整備され、道路橋の建設も増加しました。
材料面からみると、錬鉄から鋼 (注4)への移行はすでに明治時代に終わっていました。鋼材そのものは、大正初期まではほとんど輸入に頼っていたのですが、大正も後半になると、日本製の鋼材がほとんどを占めるようになりました。
 

■昭和の橋

昭和に入ってからはますます道路交通が増え、大正末期に起こった関東大震災(1923年)の復興をきっかけに橋の技術が発展し、新しい形式の橋が多数作られるようになりました。
30年代になると特に自動車時代の到来となります。離島、半島にも橋で渡りたいという要望も強くなり、長大橋の建設が始まりました。
鋼材は、製鋼法の発達にともない構造用鋼が使われるようになりました。この構造用鋼も最初は高炭素鋼であり、その後ニッケル、クロム、マンガン、銅などを添加した低合金鋼、溶接性を改善した溶接構造用鋼、強くするために熱処理を施した調質高張力鋼と開発が進められ、現在に至っています。
 

これからの橋

今後は超長大橋への実現へ拍車がかかるでしょう。いっそう安く、強く、美しく、さらに維持管理が容易であることが求められ、材料、構造、施工方法をより合理化してくことが重要となるでしょう。
 

■豆マメ知識■

(注1) アイアンブリッジ
(1.鋼橋ってどんな橋?写 真4参照) イギリスのセヴァーン川の上流に架る世界最古の鉄の橋。既に200年余の歳月を経て健在である。材料は鋳鉄、支間は約30m、イギリスの誇る文化財として大切に保存されている。
 
(注2) 錬鉄(れんてつ)
銑鉄(せんてつ)などを半溶状態で繰り返し鍛錬することによって不純物を除いて製造した鉄のこと。錬鉄は炭素が極めて少なく、柔らかで粘りがある材料である。なお、20世紀になると鋼が中心となり錬鉄の生産は停止した。銑鉄は鉄鉱石(酸化鉄)を溶鉱炉で還元して鉄にしたものをいう。
 
(注3) 鋳鉄(ちゅうてつ)
通常炭素量2.5~4.5%の鉄を適当な炉を用いて溶解し、鋳型に注入し凝固させて製造した鉄のこと。鋳鉄は炭素を多く含み硬くて脆い材料である。
 
(注4) 鋼(ハガネ)
鋼には、炭素の他にケイ素、マンガン、リン、硫黄が混ざっていて、これら元素の量 によって鋼の性質が決まる。鋼は鋳鉄と錬鉄の中間でバランスの取れた材料である。

現在、「鋼橋」が橋の主流になっているのは、「鋼橋」にはとってもいいところがたくさんあるからなんだ。でもちょっぴり難点もある。
ここではそんな鋼橋の特徴を調べてみよう!

 

鋼橋の特徴

橋の全生涯を50~100年とすると、その間には、予想もしなかった大きく重いトラックが走るかもしれないし、超巨大地震や超猛烈な台風に襲われることもあります。また、大洪水が起きて、川の中の橋脚を押し流そうとする場合も考えておかなければなりません。
このような場合にも、橋は何とか耐えて、大地震、大型台風、洪水が終わった後は、また平然と自動車、電車を通す必要があります。ですから、橋に使われる材料はおのずから限られます。
十分な手入れをすれば、100年近く経っても材料の性質が変わらず、また十分な強さを発揮できるものとして、現在では“鋼材”と“コンクリート”が橋の主要な材料として使われています。


写真1 ホロナイ橋(JH北海道)
※主桁は鋼で床版がPC
(プレストレスコンクリート)

 

鋼橋の長所

1.軽量で強度が高い

鋼とコンクリートの強度と重量 (単位体積当り)の関係を表1に示します。

表1 鋼とコンクリートの強度と単位体積重量
  強度(N/mm2) 単位体積重量(kN/mm2) 強度/単位体積重量
400~1000(引張) 77 5.2~13.0
コンクリート 25~60(圧縮) 23 1.1~2.6

鋼はコンクリートに比べて重量の割に高い強度を得ることができます。そのため、川幅が広く長支間の場合や弱い地盤上への建設に適しています。また、鋼橋はコンクリート橋に比べて軽量となることから、地震による影響も小さくて済みます。
 

2.信頼性の高い材料である

材料となる鋼は、製鋼所で注文に応じた強さ、厚さの鋼板がつくられ、材料としての均一性や品質が保証されるので、ほとんどが現場で作られるコンクリートと比べ、非常に信頼性の高い材料といえます。もちろん、鋼板以外にも形鋼(図1)と呼ばれる様々な形状の鋼材が使われています。
 


図1 いろいろな形の鋼材
 

鋼橋の短所

1.さびる

鋼材は、これを放置しておけば、酸素や水などと結びついてさびてしまいます。さびを防ぐためペンキを塗りますが、化学製品であるペンキの寿命はせいぜい10年程度であるため、橋の全寿命の間には適当なインターバルでの塗り替えが必要になります。
 

2.揺れやすい

鋼橋は軽いため揺れやすく、振動が問題になる場合もあります。 ほかにも一長一短ありますが、近年では、それぞれの長所を生かし、短所を補うかたちで鋼材とコンクリートを組み合せた“合成橋梁”、“複合橋梁”などが増えています。

「鋼橋」がどうやってつくられるのか知っているかな?
大きな橋をつくるのはとても大変な作業なんだよ。
でも、一つの橋をかけることによってたくさんの人が便利になる。そのために今も橋の建設が行われているんだ。
では、「鋼橋」がつくられる過程を紹介しよう!

 

鋼橋ができるまで

橋ができるまでには、さまざまな作業があります。それには多くの人が協力し合って初めて出来上がります。例えば、皆さんご存知のように、橋にはいろいろな形のものがあります。これを決めることも重要な仕事です。また、橋は長い間、皆さんの生活を支え、密接に関わり合います。ですから将来のことも考えながら決めなければなりません。橋が出来るまでの流れを分けると、4つの大きな作業に分けられます。それぞれを専門家が協力し合って作業を行なっています。
 

橋の計画

橋がなくて不便なところや、古くなったり、手狭になってもっと大きな橋が必要になることがあります。計画の仕事ではまず、「どこに・どんな橋を・いつごろ架けるか」を決めます。そのためには、いろいろな立場の専門家が調査して決定します。また、橋はしばしば町のシンボルとしての美しさが求められます。そこで、どんなかたちの橋がふさわしいかを考えることも重要な仕事です。
 

橋の設計

橋のかたち、大きさが決まったらいよいよ橋の設計が始まります。橋は自動車や鉄道などの非常に重いものを支えます。また、風や地震などのような自然の力が働きます。設計では、それらの力に対して安全な構造を決めます。決めた構造をもとに図面 を描きます。図面には、橋の形、大きさなど、橋を作るのに必要なことがすべて描き込まれています。ここまでが設計の大きな仕事です。難しい計算には大型コンピュータが使われていましたが、最近ではパソコンを使うことも増えてきました。
 

橋の部品を作る

鋼橋の部品は工場で作ります。その流れは鋼板の切断・鋼板の組立・橋の仮組立・塗装と大きく4つに分類されます。
 

■鋼板の切断

先ず最初に設計図面 を参考にして、材料の切りたい大きさ、形を描きます。皆さんが紙で模型などを作るときに、材料を切る前に目印を付けるのと同じです。但し、橋の場合は紙ではなく鉄板ですから、直接鉄板に線を引く分けでありません。パソコンの画面 の中で、線をひきますが、やっていることは、紙に線を引くのと同じです。いずれにしろ、この作業によって正確に早く鉄板を切ることが出来るわけです。 次に、鉄板の加工です。ここでは、大きな鉄板をさまざまな大きさに切ることが主な仕事です。この他に、曲げる、あなを明ける、削るなどの作業があります。


 

■鋼板の組立て

次に、鉄板を組合わせて橋の部品を作ります。先ほどの「加工」で作った板片を主に溶接という方法を使って組み立てます。(写真1)

 

 

■工場での仮組立て

最後に仕上げを行ないます。仕上げでは、3つの大切な作業があります。まず、長さを揃えたり、曲りやそりを直したりします。次に、野外の広いスペースに、部品を使って実際の橋を組み立ててみます。(写真2)これにより設計どおりの形になっているかどうか確認できます。この作業を行なうことで、現場で安心して橋を架けることができるわけです。

 

 

■工場での塗装

桁に色を塗ります。色を塗る理由は、きれいにするための他に、さびを防いで橋を長持ちさせるためもあります。
 

橋を架ける

最後に橋を実際に架ける作業を行ないます。橋を架けるには非常に多くの方法があります。その中から、最もふさわしい方法を選ぶことは大変重要な仕事です。一般的には、橋を架ける場所の地形などを総合的に判断して方法を決めます。また、橋のかたち(形式と言います)から決まる場合もあります。いずれの方法であっても、安全であることが最も重要です。ここでは代表的な方法を幾つかご紹介します。
 

■トラッククレーンベント工法

 

 

■送出し工法

 

 

■ケーブルクレーン工法

 

 

■フローティングクレーン工法

 

5.1 さびから鋼橋を守る

空気と雨がある限り(なかったら困るよね)、「鋼橋」にはつねに「さび」からくる危険につきまとわれている。
どうやって、「さび」を防いでいるんだろう?

 

さびから鋼橋を守る

鋼材のイメージとは? の問いに対して「錆びる」と言う意見を多く聞きます。鋼材は水と酸素の両方に接しなければ錆びることはありませんが、通常、鋼橋が建設される大気中では、空気(酸素)があり、雨や結露水などにより水が供給されますので、必ず錆びが発生します。この錆びを放置しておきますと、次第に鋼材の板厚が減少し、しまいには穴があいてしまい、橋の構成部材としての役割を果たせなくなり、治療が必要になります。また、橋梁は、道路などの公共建造物として建設されることが多いので、長い間、多くの人が安全に使用できなければなりません。このため、鋼橋の各部材を錆びから防ぐことを防食と呼び、鋼橋の寿命が少しでも延ばせるよう、様々な防錆防食方法が考案、実用化されています。
以下に、現在行われている代表的な防錆防食方法について説明します。

塗装による防錆

塗装(ペンキ)は、最も一般的な防錆方法であり、歴史も最も古い方法です。塗装による方法は下塗り(鋼材に一番近い層)に錆びを防ぐ性質の塗料を中塗り、上塗りには外部からの水や不純物などの侵入を遮断する性質の塗料を使用するなど何種類かの塗料を塗り重ねた薄い膜(合計約0.25mm)により、さびの発生を抑える方法です。さらに、上塗りには景観性を考慮して色彩 を自由に選択することができます。 塗装による方法は、必ず数年~十数年毎に防錆上あるいは景観の再生のための塗替えが発生します。

溶融亜鉛メッキによる防錆

昔ながらのトタン板などに施されているもので、高温で溶かした亜鉛を満たしたメッキ漕(プール)に橋の部品を浸けることにより、鋼材の表面に亜鉛の膜が張られます。この亜鉛の膜が錆びを防ぐのに大変優れています。ただし、色が銀色のため景観性から使用される場所が限られます。

耐候性鋼材の使用

山間部や高速道路のオーバーブリッジなどで錆びた橋を見たことがあると思いますが、この橋は耐候性鋼材と言う特殊な鋼材で塗装などを施さず、裸で使用されています。耐候性鋼材は、数年~数十年かけて鋼材の中に添加されている銅やニッケル、リンなどの化学成分の働きで錆びの性質が徐々に変化し、次第に緻密な錆びで鋼材表面が覆われ、その後の錆びの進行を防ぐ性質をもった鋼材です。したがいまして、塗装のように塗替えなどの維持管理は不要となります。
 


写真1 日生野橋(裸で使用)

乾燥、除湿による防錆

橋梁の種類の中に箱げた内がありますが、この箱桁内は湿気により結露水が発生し、さびの発生の要因となります。このため、一般的に塗装が行われてきました。これに対して箱桁内に住宅と同じように除湿機(乾燥した空気を送りこむことで除湿)を設置して、常時乾燥した状態にする防錆方法(図1)が我が国でも試みられ始めました。また、同様の理由で吊橋のメインケーブルにも送気を行う方法が、明石海峡大橋などで行われています。
 

図1 乾燥空気による 桁内面 の防錆方法
 

5.2 かぜから鋼橋を守る

暑いとき、涼しさをもたらしてくれる貴重な風。
でも風が強いと、ものがとばされたり、歩きにくいこともあるよね。
それがものすごく強い風となると「鋼橋」にとっても大変、事故につながる可能性もあるんだ。
「風」に対する対策はどうなっているんだろう?
 

風から鋼橋を守る

建物と風の問題は、地震、土砂崩れ、津波などとともに厳しい自然環境が人間の社会生活に大きな被害をもたらす恐れのある諸問題の一つです。特に、台風の通り道に位置する我が国では、橋を含む建物の建設において風の影響を無視することはできません。

風による被害・事故

風による被害・事故は、規模の大きいものから小さいものまで数え切れないほどあります1,2)。例えば、台風、ハリケーン、竜巻の来襲により、家・建物の破損、看板などの飛散、電柱・送電鉄塔の倒壊、樹林・果樹・農作物の倒壊、自動車・列車、ときには飛行機の横転、船の転覆など、多大の被害・事故がもたらされています。この他にも、大きな事故・被害には至らないものの、台風などの強風ではなく比較的弱い風によって、不都合な振動が発生したり、ビル風が吹いたり、ピューピューという風切り音が発生し騒音になるなどの例が、橋、高いビル、送電線、各種の塔で認められます。これらの現象は、風と建物がお互いに作用し合って発生し、多様で複雑です(写真1  3,4))。
 
(a)

 
(b)

写真1 H型断面をもつ物体周りの風の流れ
(a) 静止時 3)
(b) ねじれ振動時 4)
 
実際に起こった風による橋の被害は、1879年のテイ橋(全長3kmの鉄道橋(箱桁),英国)の落橋や、1940年のタコマ・ナロウズ橋(中央径間853mの吊橋,米国)の落橋(写真25)) といった歴史的な事例から、斜張橋ケーブルや照明柱の振動に至るまでいろいろあります。このような被害・事故を繰り返さないため、関連する分野で研究が進められ、現在では風に対して安全で快適な橋を作るための設計方法が確立されつつあります。 風により橋に発生する問題としてたわみや振動がありますが、以下、その対策としてよく使わる方法を示します。
 

写真2 風によるタコマ・ナロウズ吊橋の落橋 5)
 

風の流れを変える方法

橋桁や吊橋の塔、斜張橋ケーブルの形を工夫して、周りの風の流れ方を変化させ、風の力を小さくしたり、振動が起こらないようにします。(図1 6)参照)
 


図1 橋桁の形を工夫した例 4)
 

橋の性質を変える方法

1.振動を抑える能力を向上させる

橋桁や塔、斜張橋のケーブルに、振動を抑える装置(写真3 7))を取り付け、振動が大きくならなようにします。
 


写真3 吊橋主塔の振動を抑える装置(明石海峡大橋) 8)
 

2.曲がりにくくする

橋桁などにおいて断面を構成する鋼材の厚さを増やしたり、斜張橋のケーブルをワイヤーロープなどのつなぎ材でつなぎ合わせたりして、曲がりにくくし、風によるたわみ量 を小さくします。また、曲がりにくくすることで、橋桁やケーブが振動する周期を短くすることができます。振動する周期が短い程、速い風(強風)で振動が起こるので、いつも吹いているような遅い風(弱風)では振動が起こらないようにすることができます。
 
【参考文献】 1)岡内 功・伊藤 學・宮田 利雄:耐風構造,丸善,1997. 2)石崎溌雄:耐風工学,朝倉書店,1997. 3)九州工業大学 久保喜延教授提供 4)中村泰治:Bluff-body Flutter,Frisbee(Video),九州大学応用力学研究所,1992. 注)3),4)は、日本鋼構造協会:構造物の耐風工学,東京電機大学出版局,pp.8,1997.に掲載。 5)Farquhason, F.B. et al.:Aerodynamic Stability of Suspension Bridges with special reference to Tacoma Narrows Bridge, Bull. Univ. of Washington Eng暖. Exp. Station, Part Ⅰ,1949. 6)日本鋼構造協会:構造物の耐風工学,東京電機大学出版局,pp.23,1997. 7)日本鋼構造協会:構造物の耐風工学,東京電機大学出版局,pp.19,1997.
 

5.3 地震から鋼橋を守る

大きな地震が大きな被害をもたらすことは、ボクたちもよく知っているよね。
地震がおきるとなぜ建物がこわれたりするんだろう。その理由を考えながら、「鋼橋」の地震対策を紹介するよ。
 

地震から鋼橋を守る

みなさんも普段電車やバスに乗っているとき、その電車やバスが急発進してよろけたり、逆に、急ブレーキをかけられて、転びそうになった経験が何度かあるでしょう。このとき、みなさんは何か強い力で突き飛ばされたような衝撃を感じたのではないでしょうか。このときみなさんが感じた力は慣性力と呼ばれるもので、この力は重さの重い物程大きく働くという性質を持っています。(図1)
これと同じように、地震のときには地面がいろいろな方向に急激に動くので、その地面 の上に建っている家や橋にもやはり慣性力が働きます。大きな地震ほど家や橋が受ける慣性力も大きくなりますから、大きな地震がくるとその力に耐えられない家や橋は壊れてしまいます。
 

図1 慣性力の働き
 
橋はわたしたちの生活になくてはならないものですから、橋を作る場合地震から鋼橋を守るには、わたしたちが普段経験しているような小さい地震ではもちろんのこと、阪神・淡路大震災や関東大震災のような大きな地震がきても橋が落ちたり、二度と使えなくなってしまうような大きな被害を受けず、少し修理しただけで今までどおりに安心して使える安全な橋を作らなければなりません。
鋼橋の材料である鋼は、軽くて強いという性質を持っていますから、もともと鋼橋は地震には強い(軽いから受ける慣性力が小さい)のですが、さらに安全性を高めるために、桁と橋脚の間や桁と桁の間にクッションの役割をはたすゴムなどをいれて地震の衝撃を弱めるといった工夫もしています。(図2)
 

図2 ゴムを使用した例
 
また、日本には橋を作る場合に守らなくてはならない国が定めた基準があり、この基準には例え阪神・淡路大震災や関東大震災のような大きな地震がきても橋が重大な被害を受けないようにさまざまな厳しい条件が設定されています。古くなったり、強度が落ちてきたような橋には補強や改良工事も行います。今まで述べてきたように、さまざまな対策によって鋼橋は地震から守られ、大きな地震でも耐えられるように作られているのです。

「鋼橋」がいつも安全でベストな状態でいられるために健康チェックは欠かせない。
「病気」の「早期発見」「早期治療」が大切なのはボクたちと同じなんだよね。

 

鋼橋の健康診断

道路橋の寿命は通常50年程度といわれ、この間自動車や人が安全かつ快適に渡れることが求められます。そのため、橋も人間と同様に定期的に診断を行い健康状態について調べる必要があります。また、健康診断で悪いところが見つかった時には、適切な方法で治療(補修)を行わなければなりません。 ここでは、鋼橋の健康診断・補修の方法について、橋の路面であるコンクリート製の床(鉄筋コンクリート床版)、自動車や人そして橋自身の重さを支える鋼製の主桁(鋼桁)を例に紹介します。
 

図1 橋の構造
 

鋼橋の健康状態をチェック

■鉄筋コンクリート床版

床版にひび割れがないか、コンクリートのはがれ落ちがないかを目で見て調べます。また、ハンマーなどで直接たたくことにより、目に見えない部分についても調べます。これらの調査の結果 、ひび割れが発見された時は写真撮影をしたり、ひび割れの長さ・幅を計測して状況を記録します。

■鋼桁

桁の点検項目としては、桁(鋼材)のひび割れ、損傷、事故などによる変形、ボルトのゆるみや脱落、塗装のはがれ、さびの発生があり、これらは目での観察やたたいたり手で触ることによる外観検査で調べます。また、桁(鋼材)のひび割れなどは塗装に隠れてわかりにくい場合もあるので、超音波などの計測器を利用し内部の状況を調べます。(図2)
 

図2 床版ひび割れの進展
 

鋼橋の健康状態は?

■鉄筋コンクリート床版

床版の寿命は、その橋を通過する車両の重さにより大きく変化します。橋をつくったときに予想したよりも重い自動車がたくさん走った場合、床版は壊れやすくなり寿命が短くなります。 床版の破壊の順序は、最初に平行線状にひび割れが発生し、次に碁盤目状のひび割れとなり、さらにひび割れが進展すると、路面 から水が漏れだし、最後にコンクリートがはがれ落ちるという順序をたどります。

■鋼桁

鋼桁の主な損傷としては、さびと金属の疲労が挙げられます。
●さ び
さびを防ぐため鋼桁は塗装されていますが、塗装のはがれ等によりさびが発生します。さびが発生すると桁を構成する鋼の板厚が減少し、重さを支える能力が小さくなります。さびがひどくなると、最終的に通 過する車両の重さを支えることが出来なくなり重大な問題となります。塗装の寿命はおよそ10年程度ですが、海岸部では塩分の影響を受けるためさらに短くなります。さびの発生しやすい箇所は、鋼桁の角など塗装がつきにくい部分や、雨水がたまりやすい場所です。さびの程度が小さければ再び塗装を行いますが、ひどい場合は鋼桁の補強や取り替えが必要となります。
●疲 労
道具を使わずに細い針金を切断するとき、針金を繰り返し折り曲げることで切断できることは誰もが知っていますが、このように金属が繰り返し力を受けることによりもろくなることを金属疲労といいます。鋼桁では車両の通行により繰り返し力を受けるため、溶接した箇所などにある小さな傷が、しだいに大きな亀裂になるなどの被害が発生しています。
 

治療のしかた

■鉄筋コンクリート床版

床版のひび割れが進んだ場合には治療(補修)が必要となります、ここでは代表的な「打ち替え工法」「鋼板接着工法」を紹介します。(図3)
●鋼板接着工法
コンクリート床版の下面に鋼板を接着し、床版と一体化させることにより、自動車荷重に対する抵抗力を増やす工法です。鉄筋の量が不足している床版で損傷があまり進んでいない場合に適しています。
●打ち替え工法
ひび割れの発生した床版を全面的に、あるいは部分的に撤去して新たに床版をつくり直す工法です。床版の損傷がひどい場合に採用されます。
 

図3 鋼板接着二法
 

■鋼 桁

●鋼材のさび
雨水やほこりがたまり、湿った状態になりやすい場所では部分的なさびによる腐食が発生している場合があります。このような箇所で腐食により鋼材の板厚が薄くなってしまい、自動車などの重さを支えることが難しくなっている場合、一般的には補強材料により補修が行われます。
●鋼材の疲労
亀裂の発生した箇所の補修・補強工法としては、補強による方法や小さな亀裂の場合には亀裂の先端に孔(ストップホール)をあけ、これ以上亀裂が広がらないようにする方法や、亀裂を溶接で埋める等の方法が用いられます。(図4)
 

図4 ストップボールの適用例

「鋼橋」についてだいたいわかってくれたかな?
「鋼橋」は長い歴史のなかで生まれてきた、とても信頼性の高い橋なんだ。
もちろんこれからも、どんどん改良されていくし、今ではまだ夢とされている橋でもできちゃうのかもしれないぞ。
 

次世代のプロジェクト

橋は私たちの生活になくてはならないものです。たくさんあった方が生活には便利ですが、費用がかかることですから、どこに橋を造るかは国や県、市町村といった役所の道路計画に沿って決められます。わが国の道路計画は、従来は東京や大阪といった大都会を中心に太平洋岸の都市を結んでいくような計画でしたが、最近では地方を重点的に考えるように変わってきました。 また、わが国には、高齢化社会、環境問題、財政難、等々の社会的に大きな問題が山積みになっています。こういったことに対応していくためには、これからの橋は、より強く、より便利で、より美しく、より人に優しく、より長持ちし、より安く、より安全なものでなければならないと考えられています。そして、それを実現するためには、橋の材料や構造、設計や製作などといった技術的なことや、建設資金の調達、完成後の運用維持管理といった面での新しい発想が必要となります。 さて、そういった新しい発想を実現させようとしている超ビッグな構想の例として以下のようなものがあります。
 

■海峡横断道路プロジェクト

 

図1「第11次道路整備5ヶ年計画」(98年6月/建設省道路局)より
 

■津軽海峡横断橋


図2 津軽海峡横断橋予想図
「津軽海峡からのメッセージ」
(96年6月/本州・北海道架橋を考える会)より
 

■北海道・サハリン・大陸架橋構想

(98年3月8日/北海道新聞)
当然これらの構想は、“鋼”の橋ということになりますが、新しい発想の下で、現状の技術レベルかその延長線上で実現可能とされています。実現すれば、九州から、四国、本州、北海道、そしてサハリンを経てロシア大陸まで陸路で結ばれるということになりますが、それまでには気の遠くなるような時間と手間がかかるものと思われます。特に、建設にかかる費用の問題は最大の難問であり、現在の橋の半分のコストで建設できないか、現在色々と研究されています。
 

夢の橋

100年前には考えもつかなかったようなことが次々と実現されています。エレクトロニクス、バイオテクノロジ、コンピュータ、通信技術.....、そして2,000mをひとまたぎするような橋。 さて、これから100年後にはどんな橋が実現しているのでしょうか? 以下に技術者の夢として公表されたもののいくつかをご紹介します。

■3,000mを越える橋

橋梁技術者の夢であった明石海峡大橋も完成し、2,000mをひとまたぎするのはもはや夢ではありません。次の目標は3,000mです。海外には、この規模の計画がありますがまだまだ多くの課題が残されています。しかしながら、技術者は常に果敢に目標に向かって努力し、いずれは実現されることでしょう。
 

図3 中央径間3,300mのメッシナ海峡連絡橋完成予想図
(日経コンストラクション、1993年4月9日号p76)より
 
■多機能型の橋
単に道路や鉄道を通すだけでなく、橋そのものがビルや住居であったり、交通・流通の拠点となるような橋です。橋の上には車のターミナルや鉄道の駅やヘリポートがあり、また橋脚は船着き場も兼ねていて、人や物資の目的に応じて最適な輸送方法が取られます。
 

図4 「多目的橋梁」
(第2回荒川マイリバーコンテスト入賞作品、1997年)より
 

■水中に浮く橋

長い橋を架けるときには、自分自身の重さにどう耐えるかが問題になりますが、橋桁をチューブにして道路や鉄道はその中を通し、そのまま水中に入れてしまえば水の浮力が働いて自重の問題はなくなります。また、台風や地震の問題も小さくなるでしょう。そんなことから、色々なところで実際に研究が進められています。
 

図5「水中浮体橋梁の例」
(N SFT Co. ASのホームページ、http://www.nsft.no/)より
 

■空中に浮く橋

長い橋を架けるときには、自分自身の重さを支えるために途中に橋脚が必要となります。しかし、海峡横断のように水深が大きいときには、橋脚をつくるのも大変になります。そこで、橋桁自身を気球のようにして浮かせてしまおうという発想です。
 

図6「バルーンブリッジ」
(夢ロード21入賞作品、1990年)より