性能規定

 


 鋼橋に限らず,他の土木構造物,建築,機械,船舶,航空機,電気製品,電子機器等のほぼ全ての工学分野において,製作の前に設計という作業が行われる.設計結果は,一般に設計計算に基づいた製作図面という形で最終的に表現される.

 

 鋼橋における設計の目的は,景観や維持管理に配慮し,要求された機能を満たし,安全で,経済的な鋼橋を製作・架設するのに必要十分な情報を提供することである.機能を満たし,安全で,経済的であることを保証する手段が,設計法と呼ばれるものである.橋梁は公共性の強いものであるから,設計者によって設計結果が著しく異なることは避けるべきであり,そのため,共通の設計規準が一般に用意されている.鋼橋の設計規準はある特定の設計法に基づいて記述される.現在,我が国において,鋼道路橋の設計規準には設計法として許容応力度法が採用されており,鋼鉄道橋の設計規準では限界状態設計法が適用されている.両設計法は,対象とする橋梁も異なり,表現の方法も異なるが,考え方に大きな相違があるわけではない.いずれの規準においても,鋼材の基準強度としては,降伏点がとられており,鋼材の塑性的な性質は少なくとも表向きには考慮されていない.限界状態設計法では安全係数が導入されており,安全性の照査がよりきめ細かく行われているということは,述べておく必要がある.なお,現行の許容応力度法に基づく鋼道路橋の設計規準を限界状態設計法の書式で書き換えるという試みも,本研究会の特定部会で既に行われている,ということを付記しておく.

 

 最近では,従来の仕様規定型の設計法に代わって,新しい設計体系として性能規定型の設計法が提唱され,建築では実際に実行に移されている.1998年4月に改訂された建築基準法では,従来,建築規制の枠組みの中で,材料の種類や寸法,工法などが細かく規定されていたのに対して,建材や工法が自由に選べるようになった.

 

 鋼橋の性能規定型設計法については,本研究会に特定部会が設けられており,詳しくはそちらを参照して頂きたいが,具体的にどのようなものになるかは,今のところ,必ずしも合意が得られているわけではない.極端な例として,要求される性能のみが規定され,その性能が満足されていることを照査する方法は設計者に完全に委ねられる,ということも考えられるが,現時点では現実的ではないであろう.設計結果が設計者によってかなり異なったものとなることが予想されるからである.

 

 いずれにしても,性能規定型設計法においては,鋼橋に要求される性能が規定され,それが十分満たされるように設計が行われる.ここで,鋼橋に要求される性能は,実際には,限界状態として表現されることが一般的であり,その限界状態に対して必要十分な余裕を有していることが照査されることになる.限界状態は,通常,終局限界状態と使用限界状態の2つに大別される.終局限界状態というのは,構造物が崩壊あるいは破損に達した状態であり,ISOで要求されている性能,「構造物あるいは構造部材が,建設中あるいは使用中に発生が予想される最大あるいは頻繁に繰り返す作用に耐えること」に対応している.一方,使用限界状態は,構造物の健全な使用が困難になった状態であり,ISOで要求されている性能,「予想され得る全ての作用(荷重,強制変形等)下において健全に機能すること」に対応していると言える.座屈破壊や疲労破壊は前者の例であり,過大なたわみや著しい振動は後者の例である.この他に,景観,環境負荷,保守などに関しても要求性能が規定されるべきであるという議論もある.

 

 鋼道路橋示方書については,性能規定型の規定を限界状態設計法の書式で表現する方向で,現在,改訂作業が進められているとのことである.