限界状態設計法

 

 限界状態設計法は,「その構造物に生じてはならない種々の限界状態を想定し,それぞれの状態に対する安全性を個々に照査する方法」と定義されている.許容応力度設計法と本質的な違いはないものの,条項の決め方にきめ細やかさが見られ,設計の自由度が増加していると考えられる.また,言葉自体のもつ意味からは,確率論を取り入れているようには思われないが,その歴史的経緯から確率論と限界状態設計法を切り離すことはできない.限界状態設計法の研究がソ連において始められたときに,既に確率論が導入されていたと言われている.限界状態設計法の最も顕著な特徴の1つとして,単一ではなく,複数の安全率(部分安全係数)を用いていることがあげられる.部分安全係数は,Basler(1960)の論文から限界状態設計法での適用が検討され,規定上は複雑になるものの,合理的な設計が可能になることが認められ,全面的な採用に至った.

 また,限界状態は終局限界状態,使用限界状態,疲労限界状態の大きく三つに分類することができる.終局限界状態は構造物または部材が破壊したり,大変形,大変位などを起こし,機能や安定を失う状態と定義でき,最大耐力に対応する限界状態であり,耐用期間中にただ一度作用するかもしれない非常に大きな荷重が作用することによって生じる状態である.使用限界状態は構造物または部材が過度な変形,変位,振動等を起こし,正常な使用ができなくなる状態と定義することができ,通常の供用または耐久性に関する限界状態であり,頻繁に作用する荷重により生じる可能性が大きい.疲労限界状態は構造物または部材が繰り返し荷重により疲労損傷し,機能を失う状態であり,変動荷重,荷重振幅の影響が大きいと言える.

 構造物の安全性を照査するには,最大値と想定される荷重に対する荷重効果S(断面力あるいは応力)と確率的に見て十分安全と思われる抵抗値Rとを比較して,下式が成り立つことが必要と考えられる.

     S≦R                                (1)

すなわち,十分大きな荷重に対する荷重効果Sと十分小さな抵抗値Rとを比較して安全性を確保しようという考え方である.

 しかしながら,確率統計の理論に基づいて荷重効果Sや抵抗値Rを十分安全側に扱ったとしても,設計から施工に至るまでのあらゆる段階における未知の要因をSやRへ含めることはできず,無知係数とも呼べるような安全率ν(ν≧1)を考えることが,数多くの事例や教訓から提案されてきた.そして,式(1)の安全性の照査式をさらに安全側とするために,SとRとの間に一定の比で表される安全率を確保するために,式(2)がNavierによって提案された(1826年).

     S≦R/ν (応力で示せば,σ≦σa=σu/ν:σu=材料強度)     (2)

 その後材料の進歩と相まって,長い間,式(2)が許容応力度設計法の照査式として使われてきた.

 限界状態設計法のフォーマットが明確になるように,現行の許容応力度設計法の抵抗値側に含まれていた安全率νを抵抗値から独立させ,式(2)を変形すると下式の限界状態照査式をえることができる.

     ν・ΣS(Fd)/R(fd)≦1                      (3)

 ここに,Fd:設計荷重,fd:設計材料強度,S:荷重効果,R:抵抗値,ν:安全率.式(3)が土木学会基準である鋼構造物の限界状態設計法の基本照査式であり,この限界状態設計法の照査式が現行の許容応力度設計法によるものと等価であることは周知の通りである.一方,コンクリート構造物の限界状態設計法では,下式の安全性照査式が用いられている.

     γi・ΣγaS(γfFk)/(1/γb・R(fk/γm))≦1        (4)

 ここに,Fk:荷重の特性値,fk:材料強度の特性値,S:荷重効果(断面力),R:抵抗値(断面耐力),γf:荷重係数,γa:構造解析係数,γm:材料係数,γb:部材係数,γi:構造物係数である.この式はISO国際規準に準拠したものであり,式(3)に見られる安全率νを5つの係数に割り振り,技術の進歩にあわせて安全性を確保するための係数を変更しやすくした点に特徴がある.ただし,式(3)と式(4)を比較すると本質的な差異はなく,不確定要因について,どちらがきめ細かく対応できる書式であるかという点だけである.

(参考文献)

1)      土木学会 鋼構造物設計指針小委員会:鋼構造物設計指針 PART A 一般構造物[平成9年版]

2)      日本鋼構造協会:鋼構造物技術総覧[土木編],1998.5

3)      鋼橋技術研究会 設計部会:調査研究報告書(限界状態設計法に関する調査・研究),H7.5

4)      鋼橋技術研究会 限界状態設計法研究部会:限界状態設計法の書式による鋼道路橋設計指針,H10.12